株式会社ヤクルト本社の事業展開にメーカーの理想を感じる理由をひたすらまとめてみる

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『乳酸菌飲料』と聞いてまず思い浮かぶのはヤクルトではないでしょうか?
ピルクル、カルピス、ビックルなど、いろんな商品がありますが、その中でも『ヤクルト』のブランドは際立っています!

乳酸菌のプロが本気で『ヤクルトとピルクルの違い』決定版を作ってみた

ヤクルトブランド構築や収益の確保につながっているのは、他社には見られないユニークな事業展開
僕は大学時代に書類選考で落とされていますが(涙)、学生視点で見て、当時からめちゃくちゃ魅力的な企業でした。
それから別の食品メーカーで働き始め、同業者として見てもその気持ちは変わりません。

今日の記事はメーカーとしてのヤクルトについて企業研究してみました。
お金の話だけではなく、事業展開や研究開発、海外での成功まで…
『正直、ヤクルトって凄すぎるよね』というリアルをレポートしていきます。

 

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はじめに:株式会社ヤクルト本社って何やってるの?

株式会社ヤクルト本社。
ヤクルトといえば、あの乳酸菌飲料ヤクルト、あるいはヤクルトスワローズを思い浮かべる人がほとんどでしょう。
商品として、ブランディングとして、この2つが大きな柱であることは間違いありません。

ただ、ヤクルトはもっと幅広く事業を展開しています。

メイン事業は『食品』『医薬品』『化粧品』の3つ。
健康志向の食品メーカーとしては珍しくないアプローチですね。
ただし、ヤクルトの強みはこの事業間のシナジーがあまりにも上手すぎるということなのです…(後述)

乳酸菌飲料は『食品』カテゴリですが、他にもお茶などの清涼飲料水、サプリメントや栄養ドリンクなど…(なぜか麺類も)
商品ジャンルは案外多い!

『私たちは、生命科学の研究を基盤として、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献します』

これがヤクルトの企業理念。
特に奇をてらったフレーズではありませんが、実はヤクルトの有言実行っぷりはとにかく凄いんです。
企業理念を『経営』としてパーフェクトに反映しているヤクルトを掘り下げていきましょう。

 

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株式会社ヤクルトの『数字』

安定した売上、利益は当たり前

企業研究のスタートらしく、まずはヤクルトの数字についてざっと見ていきましょう。

売上、利益は見ての通りの安定経営です。
リーマンショック後に売上、利益ともにダメージを受けていますが、その後V時回復!
売上は約4,000億と食品メーカーではトップ30に入るか入らないか…
しかし、経常利益率は約12%…利益率食品メーカーでトップ10、良い年ではトップ5に入ってきます。

利益が出やすい医薬品なども展開していますが、売上の9割近くは食品事業です。
ただでさえ利益が出にくい乳製品を扱っていてこの数字…
どれだけ効率的にサイクルをまわしているのでしょうか。

 

業界トップクラスの研究開発費

日本の食品メーカーの研究開発費ランキングを見てみましょう。

企業名売上高
(百万円)
研究開発費
(百万円)
研究開発比率
(対売上%)
キリンHD2,075,07062,9003.0
JT2,143,28758,2002.7
味の素1,185,98032,5942.7
明治HD1,223,74627,3082.2
ヤクルト390,41212,6773.2
アサヒHD1,706,9019,5500.6
サントリー1,410,7659,4000.7
山崎製パン1,041,9437,5160.7
日清食品468,0847,1831.5

参考:研究.net|企業R&Dデータベース ’16より

大手メーカーが並びますが、この中ではヤクルトと日清食品の売上が少し見劣りますね。
この中で5位にランクインするヤクルト…
売上に占める研究開発費率は大手の中ではヤクルトがダントツ!
3%を超えるのは食品メーカー全体でみてもごくわずかです。

 

超グローバル企業ヤクルト!海外展開に関する数字

見ての通り、実はヤクルトは超グローバル企業です。

売上の4割近くを占める海外事業。
営業利益で見れば、国内を超え、6割以上を海外が占めています。

特に目立つのがアジア・オセアニアが占める売上、そして利益。
開発が進むアジア圏に進出しているのはヤクルトに限ったことではありませんが、このエリアが最も利益を上げているとなるとまた別の話。

これは、発展途上国、新興国とヤクルトの相性が素晴らしいため…
次章では、『普通』とはちょっと違う、ヤクルトの乳酸菌事業と海外展開について掘り下げます。

 

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ヤクルトは医学である…ヤクルトを支える”乳酸菌シロタ株”のヤバさ

そもそも、ヤクルトのルーツは『食品』ではなく『医学』です。
ヤクルトをはじめ、化粧品やサプリなどのベースとなるヤクルトの乳酸菌カゼイシロタ株L.casei YIT 9029)

この乳酸菌は昭和初期に、代田医学博士が発見したもの。

  • 生きて腸まで届く
  • 悪玉菌を減らす
  • 腸内環境、免疫を整える

いわゆる日本での『プロバイオティクス』のスタートになります。
今でこそ日本人の寿命はどんどん伸びています。
しかし、当時の衛生環境は良いとはいえず、感染症も少なくありませんでした。

ここでの医学とは、病気になる前に体を整えて未然に防ぐ『予防医学』という考え方。

”食生活を整える→腸内環境を改善する→免疫力を高める→丈夫なカラダを作る”

今でこそメジャーな思想ですが、当時を考えれば革新的なアプローチです。
そもそも、清潔なトイレがない時代では、『便通の改善』は生活衛生にもダイレクトに効きます。

話を戻しましょう。
ヤクルトの乳酸菌カゼイシロタ株。

ヤクルトはこの乳酸菌に絞って研究開発を続けています。
そして、他のメーカーと違うのが、研究実績の多くが『医学系』の論文にまとめられていること。

免疫力アップ、便秘の解消、悪玉菌の低減、腸内のビフィズス菌を増やす…
このあたりはヒト試験でも認められています。

加えて、

  • 免疫細胞の活性化によるインフルエンザウイルス感染の耐性向上
  • ピロリ菌の増殖抑制
  • 免疫細胞(NK細胞)の活性化によるガン化抑制
  • 抗腫瘍、腫瘍転移の抑制作用
  • シグナル伝達制御による腸管炎症の改善

なども動物、細胞レベルで報告されています。

『ライトに飲める乳酸菌飲料』

今の日本ではこういう位置づけですが、どこか『ヤクルトなら健康』のようなイメージを抱いてるんじゃないでしょうか。
元々が『医薬』に近い考え方で生まれたヤクルト。

この食品と医薬をミックスしたコンセプトが海外展開の肝になっています。

 

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ヤクルトがなぜ海外で成功できるのか?

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世界(日本を除く)31ヶ国で、なんと1日2,000万本以上の乳製品を売り上げているヤクルト。
ユニークかつ効率的なヤクルトのグローバル戦略をまとめていきます。

ヤクルトの海外戦略とは:実はユニークだった『乳酸菌飲料』

規制が厳しく、経済が不安定なヨーロッパでは苦戦していますが、アジア・オセアニアで圧倒的な売上、利益を出しているヤクルト。
衛生環境が悪い発展途上国や、新興国市場での伸びは目を見張ります。

世界で最もビッグな乳製品メーカーはダノン
ダノンビオやOIKOSは日本でも人気ですが、『乳酸菌飲料』は見当たりません。

そもそも、世界では『ライトに飲める乳酸菌飲料』というジャンルが未開拓。
ヨーグルトのルーツは日本ではありませんが、乳酸菌飲料というジャンルは日本のヤクルト、そしてカルピスが育てたと言っても過言ではありません。

 

日本での歴史を途上国で繰り返すヤクルト

途上国では日本では考えられないような衛生環境…すなわち食の汚染も日常的です。
そのような国では、

  • ユニークなカップに入った65mLの乳酸菌飲料
  • まとめ買いできる価格(誰にでも手に入る価格という事業コンセプト)
  • ライトに飲めて、健康効果が高い

こういったヤクルトとの相性はバツグン!
不衛生なエリアに住む人は、感染症とも隣り合わせ。
健康食品はたくさんありますが、腸内環境や便通改善への需要は、それこそ医薬品レベルで求められています。

これは日本でヤクルトが伸び始めた時と同じ…
昔と違うのは『圧倒的な研究データ、ブランド、資金力』があること。

『需要がある』『金がある』『ユニーク』『競合が弱い』『安い』『ブランド、信頼がある』『美味しい』

成功しないわけがありません。
これらのキーワードのどれか1つを探して消耗している他のメーカーとは、別次元のアプローチを見せているのがヤクルトなのです。

そして『完璧な商品コンセプト』を発信する最強の女性達が海外でも大活躍しています。

 

ヤクルトレディという最強の武器

海外のヤクルトレディは2017年現在で約4万人。これは日本とほぼ同じです。

マンモスメーカーでは、物流と広告にモノを言わせてショッピングセンターに納入するのが一般的。
日本のヤクルトレディは、リピーターの獲得という役割が大きいでしょう。
『どれでも良い』層に対して『ヤクルト』というブランドを一押しするセールスマンの役目もあります。

しかし、海外進出する上では、日本のメーカーのハードルとなるのが物流の確保
配送から小売まで、日本の常識が通用しない途上国では、現地に合わせてフレキシブルに販路を拡大することが重要です。
日本のようにイオンやパルコ、スーパーや駅ビルがそのへんに転がっている国はありません。

その中で、現地人にマンツーマンで営業させる『ヤクルトレディ』という手法は、新興国開拓に最適!
ちょっと昔の『おきぐすり』のセールスマンをイメージするとわかりやすいでしょうか。

『途上国、新興国の開拓』という意味では、ヤクルトのコンセプト、そしてヤクルトレディというシステムはメーカーのお手本とも言えるでしょう。

 

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正しい『シナジー』の使い方:競合他社が『乳酸菌特化』のヤクルトに勝てない理由

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事業を広げている会社の頻出ワードが『シナジー(相乗効果)』
違うベクトル同士を組み合わせて面、立体にしていくイメージでしょうか。
(当社でも経営陣がよく言っています。汗)

しかし、多くの会社ではベクトルが繋がらず『お前シナジー言いたいだけちゃうんか』状態です。

この『シナジー』をパーフェクトに体現しているのがヤクルト…

さて、前章では研究開発費についてまとめました。
ここでは、ヤクルトに近い額の研究費を持っている大手メーカーの事業展開を例に挙げましょう。

大手となると多角的に事業展開している企業がほとんどですが、いずれも『主要事業』があるはずです。
とんでもなく将来性の高いジャンルがあれば別ですが、研究費などの投資はこの柱となる事業が優先されます。

しかし、大手といえど、なかなか事業間で相乗効果を生めていないのが現実。
柔軟性やスピードを考えれば、”日系大手メーカー”という規模感はむしろデメリットかもしれません。
物流やブランドなどは活用できますが、『シナジー』と言える事例は少ないです。

こちらはヤクルトの事業展開のイメージ図。
一見すると独立した3事業を展開していますが、そのベースは全てカゼイシロタ株を始めとする『乳酸菌事業』となります。

ルーツはヤクルトなどの乳酸菌飲料…
健康効果にアプローチするうちに疾病治療などの知見やノウハウが溜まり、医薬品として事業化…
乳酸菌の出す有用物質を研究するうちに、スキンケアなどの効果が発見され、化粧品として事業化…
医学の分野で論文を積み重ねれば、ヤクルトの『健康食品』としてのブランド力、信頼性もアップ!

これらのノウハウ、技術はすべて事業間でシェアできます。
多角的に展開しているようで、1つの軸に資金をブチ込めば勝手に全事業のサイクルが回るというシステム。

これがメーカーとしてのヤクルトのやり方。
歴史があってこそですが、安定感も効率もレベルが違うというわけです。

 

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おわりに

メーカーに勤める人間として、ヤクルトは理想的なサイクルを回しています。

社会人になってから『企業研究』する機会は少なくなりました。
競合に限らず、良い企業を研究してみると学びがありますね。

このブログではこれからも色々な企業を掘り下げていきたいと思います。
サラリーマン視点での企業研究も面白いものですよ。それでは。