食品メーカー、特に中規模以下の企業にとっては頭の痛い話題です。
平成30年6月7日に食品衛生法が改正されました。厚生労働省によると、リコール被害や食中毒など大きく6項目が示されていますが、その1つに、
2.HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化
原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。
と書かれています。
HACCP…食品メーカーの人、特に品質保証に関わる人は頭の痛いフレーズですね。
大手メーカーではすでに導入済みの企業も多いですが、それでも監査対応などは毎回冷や汗でしょう。
しかし、食品を提供する全ての事業者に義務化が求められた以上は対応しなければいけません。
さて、そもそもHACCPとは何なのでしょう。
導入は難しいのか?金がかかるのか?中小企業、個人事業主でもできるのか?
今回は、HACCPの基礎知識について体系的にまとめておきましょう。
『HACCPが何なのかわからない』と言う人のとっかかりとなるようにカンタンにまとめています。
ゼロからHACCPに取り組む人、あるいはいきなりHACCP担当になってしまったような人は、大量の資料や実践的な書籍を読む前にぜひ1度ご覧ください。
HACCPの基礎知識
HACCP(ハサップ、ハセップ)とは食品衛生の『ガイドライン』である
HACCPの語源はHazard Analysis and Critical Control Point…
すなわち、危害分析に基づく重要管理点を定めるための管理手法がHACCPです。
勘違いされやすいですが、HACCPは”手順書”でもなければ”項目”でもありません。ガイドラインというのが一番しっくりくるでしょうか。
ISO22000やFSSC22000など、食品衛生のガイドライン、基準にも色々ありますが、その違いはまたの機会に解説しましょう。
HACCPには、特に食品中のリスクを避けるための指針が定められています。
すなわち、微生物汚染や異物混入を防止するための工程管理がHACCPの目的です。
やるべきことは『12手順7原則』を守ること
手順 | 項目 |
1 | HACCPチームの編成 工場、開発、品証担当者でHACCPを管理するチームをつくる。外部の人間(コンサルなど)も活用可。 |
2 | 製品説明書の作成 原材料や包装形態、賞味期限など、製品の特徴をまとめた書類。 |
3 | 製品の用途と対象の消費者の確認 製品説明書に盛り込んでOK |
4 | 製造工程一覧図の作成 |
5 | 製造工程一覧図の現場確認 |
6 | 危害要因分析(HA:Hazard Analysis) 製造工程の危害要因を全て洗い出す |
7 | 重要管理点の設定(CCP:Critical Control Point) 危害要因の中から特に管理すべき項目を洗い出す。 |
8 | 管理基準(CL:Control Limit)の設定 安全なCCPの管理基準(温度や時間など)を設定する。 |
9 | モニタリング方法の設定 CCP管理の方法(頻度や測定機器など)を設定する。 |
10 | 改善措置の設定 管理基準を逸脱した時の対処を設定する。 |
11 | 検証方法の設定 HACCPに準じた管理ができているか検証、修正する方法を設定する。 |
12 | 記録・保存方法の設定 記録用紙や保存形態、保存期間などを設定する。 |
これがHACCPの12手順です。手順6〜12をHACCPの7原則と呼びます。
これらの呼び方は特に気にしなくて良いですが、HACCPの本質は7原則にあり、手順1〜5はその準備段階という位置付けで区別されています。
HACCPに必要な書類はそこまで多くない
12手順というと複雑に見えますが、書類整備だけ見ると実はとてもシンプルです。
必要書類 | 必要項目 |
製品説明書 | 製品名、原材料、用途、包装、食シーン、対象消費者 |
製造工程一覧図 | 製造のフローチャート、製造条件、製造場所 |
製造現場の見取り図 | 衛生区域、準衛生区域(内外の境界線、倉庫など)、汚染区域(製造室外、更衣室など)の色分け |
危害分析(HA)シート | 製造工程1つ1つの危害要因を抽出 |
重要管理点(CCP)シート | CCP項目、管理基準、逸脱時対応、検証方法 |
総括表 | 記録用紙や製造条件などのまとめ表 |
必要なのは主にこの6種類!
12手順といっても1つの書類にまとめられる項目も多いのです。
業種によって異なるので、これ以上知りたい人、実際にHACCP導入を始めた人は、厚生労働省のHACCP導入のための手引書を読んでおきましょう。
乳製品・食肉製品・清涼飲料水など、カテゴリごとに必要な項目がまとめられています。
なぜHACCPが義務化されたのか?猶予期間とスケジュールは?
HACCPは元々コーデックス(CODEX)という食品の国際規格で定められた考え方です。
HACCPを導入における重要なメリットは、海外に日本の食品を輸出する時のアピールになることです。もちろん、国内の事業者相手でも同じことですが。
大手食品メーカーでは上位の国際規格となるISO22000やFSSC22000の認証を取っていることが多いですね。これらはHACCPを前提にプラスアルファの項目を定めています。
さて、世界規模で”食品の安全”に関する注目度は上がっています。
『HACCP管理しているなら安全』から『HACCP管理していないなら危険』というレベルまできているのが現状です。
もはや日本製=安全というイメージだけでは全く通用しません。国際規格に則っている証拠が必要なのです。
また、政府が義務化を早めた理由は間違いなく『東京オリンピック』です。
世界中の人が首都圏に集まるこの時までに、HACCPの義務化を進めておきたいのです。
HACCPが義務化、すなわち改定食品衛生法が施行されるのは『公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日』と定められました。
また施行日から1年は旧基準が認められるため、猶予期間は最長で2021年6月までとなります。
参考:条文・理由|食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)
もちろん、施行が早められる可能性もあります。
やはり2020年の東京オリンピックまで、というのを頭に入れておくべきでしょう。
現在は施行に向けて、自治体からの説明や研修などが行われている最中です。
HACCP導入の前に知っておくべきこと
HACCPとは?についてカンタンにまとめました。
ここでは、HACCP導入の最初のステップとして覚えておくべき項目を概要だけまとめておきます。
義務なのは『HACCP管理の実施』であって『HACCP認証』ではない
さて、義務化というと公的機関の『認証』が必要かと思われますが、求められているのは『HACCPに沿った衛生管理の実施』に過ぎません。
すなわち、HACCP手法に則って製造し、求められた時に必要書類を提出、監査対応ができれば問題ないのです。
輸出業者や大手メーカーは認証を取ることも多いですが、中には維持費削減のために認証を撤回したメーカーもあります。もちろん、HACCP管理は実行の上で。
まずはマニュアルに沿って書類作成、製造管理を実施しましょう。当面はそれで”義務”は満たしたことになります。
HACCPに必要な費用と融資
本格的にHACCP認証を取る場合、コンサルタント導入や認証費用だけでも年間100万円以上かかってしまいます。
参考:総合衛生管理HACCP認証協会【公式】| HACCP取得費用
今回の法改正の主役となる中小の食品メーカーにとっては痛い出費ですね。
しかし、これは厚労省が定めるHACCPの話。
中小企業や地元企業向けに、地方自治体や保健所などが簡易HACCPのような形で、別途ガイドラインを設けたり、安価な認証方法を提供しています。
まずは地元の保健所に相談したり、自治体の研修に参加してみましょう!
また、HACCP管理に必要な設備投資が難しい中小企業のために、HACCP支援法では最大20億円規模の融資を定めています。
従業員数や事業環境に関する要項はありますが、資金に悩む人は一度下記のリンクもチェックしてください。
【参照】
HACCP支援法 | HACCP関連情報データベース
HACCP 支援法に基づく 「高度化計画」及び「高度化基盤整備計画」 の作成の手引き|農林水産省
HACCPをより深く理解、実行するために
この記事で解説したのはHACCPの本当に”さわり”の部分だけです。
実際に現場導入するためには、より深くHACCPを理解しなければいけません。
”新版 やさしいHACCP入門”がHACCPについてもっともカンタンで、かつ網羅的な書籍です。
中小規模の事業者であれば、まずはここに書かれている知識を抑えた上で、自治体の研修に参加しましょう。
そうすればやるべきことは理解できるはずです。知識がないまま研修に行っても理解力が追いつきませんからね。
HACCP導入の前に、工場の製造、品質管理に少しでも関わるなら読んでおくことをオススメします。
筆者も最近、生産管理に関わるようになったので購入しましたが、もっと前に購入すべきだと後悔しました。
ISO関連、取引先など、工場で働く以上は『監査』からは逃げられません。
そしてHACCP導入においても、最も緊張する瞬間でしょう。苦笑
監査対応のイロハが書かれているオススメの一冊です。
おわりに:大切なのは製造現場
HACCPを理解する。書類を整備する。図面を作成する。
確かにどれも大切です。
しかし、HACCPで最も重要なのは、これらをしっかりと現場に導入し、スタッフに理解してもらうこと。
机上だけで進めてもナンセンスです。
HACCPの本質は『安全な製品を製造すること』ですからね。
知識をつけるのは最低限。
現場とのコミュニケーションやマネジメントスキルが一番のハードルになるかもしれませんね。
こういった規格はどうしても形式的なものになりがち。
監査で慌てないように、しっかり現場とチームで動いていきましょう。それでは。