栄養成分のうち、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルをまとめて五大栄養素といいます。
それぞれエネルギー生産や細胞の新陳代謝に必須な栄養素です。
便秘や腸内環境の改善には『食物繊維』が必須ですが、食物繊維は食品に含まれる栄養素のうち人が吸収できない成分を指します。
では、なぜ食物繊維が『必須』な成分なのか。
今回は食物繊維の基礎知識を解説するとともに、正しい野菜の食べ方や便秘のメカニズムについて書いていきたいと思います!
【参考文献・書籍】40歳からの腸内改造 (ちくま新書)、腸内細菌革命 若返る!やせる!病気にならない!食物繊維の科学 (食品成分シリーズ)、Fiber and Prebiotics: Mechanisms and Health Benefits (2013) 、Diet and Chronic Constipation in Children(1999)など
レシピ作りに必要な食物繊維の知識
食物繊維といえば、野菜、海藻、フルーツ、きのこなどに多く含まれています。
これらをバランス良く食べるのが理想的ですが、この記事ではレシピ作りに役立つ食物繊維の基礎知識について、少し掘り下げて解説していきます。
食物繊維の定義
食物繊維は”人が吸収できない食品成分”と書きましたが、厚労省の正しい定義では『人の消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体』と言われています。
たんぱく質、脂質、糖質は、唾液や胃液(塩酸、酵素のペプシン)、小腸の腸液などで分解され、吸収されます。
これらの消化管を経て残ったものが食物繊維として、腸内細菌のカスとともにウンチになります。
ただし、食物繊維にも種類があり、それぞれ違う機能を持っています。
食物繊維の種類と分類について解説していきましょう。
食物繊維の機能
食物繊維の機能を図にまとめました。
食物繊維のおもな働きは、
- 便の骨格となる
- 有害物質を吸着・排出する
- 腸内細菌(善玉菌)の栄養となる
の3点です。
食物繊維が便の重量、体積を増やして便意を促進し、便秘を予防することはよく知られています。
また、繊維質が物理的、化学的に腸内の有害物質を吸着することで、腸内を清潔に保ちます。1
便が出ず、ガスが溜まると体が重くなり、血中の有毒物質濃度も上がります。免疫力も低下し、良いことなしですね…。
栄養源や有毒物質を吸着する食物繊維は、脂質や糖質の吸収をおだやかにしたり、大腸ガンの予防にもつながります。
一部の食物繊維は、乳酸菌やビフィズス菌など、腸内の善玉菌の栄養源になります。
腸内フローラが改善されると、腸内が酸性に傾きます。すると、腸の動き(蠕動運動)が活発になり、便通の改善にもつながるというメカニズム。
イソマルトオリゴ糖など一部のオリゴ糖が特に有効で、メーカー各社が関連製品を発売しています。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維
代表的な食物繊維の種類と概要を下の図にまとめました。
食物繊維は大きく2つ、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に分かれます。
水に溶けない不溶性食物繊維は、便の骨格となり、便の重量や硬さに影響します。
植物全体に存在するセルロースが代表的な不溶性食物繊維で、ヘミセルロースやリグニンとともに、植物の組織を形成します。緑黄色野菜や豆類など、あらゆる植物に存在しています。
コーンが形そのままウンコとして出てくるのも、コーン外皮の主成分がセルロースだからです。セルロースはわずかに腸内細菌によって分解されますが、大部分は残ったまま便となります。
一般的な食シーンでは、人が食べる食物繊維の70%はセルロースと言われています。
また、エビやカニなど甲殻類や昆虫の外皮に含まれるキチンも不溶性の食物繊維です。
対して、水に溶ける水溶性食物繊維は、余分な水分を吸収し、便の体積を大きくするため、便通や便のキレを改善します。カッチコチの便をする人は水分や水溶性食物繊維が不足していることが多いです。
水溶性の食物繊維のうち、ペクチンはフルーツに多く含まれ、オリゴ糖は果実のほか、蜂蜜や甜菜(砂糖の原料)などにも含まれています。ペクチンは食品添加物にも認定されており、酸に強い増粘剤としてジャムやアイスクリームに使われます。
海藻はセルロースのほか、粘性の多糖類であるアルギン酸を含みます。
海藻の食物繊維は不溶性、水溶性と非常にバランスが良いのです!
ほかにも、難消化性デキストリンや、蒟蒻畑で有名なグルコマンナンも水溶性食物繊維です。
海藻、フルーツと意識しないと食べない食材が多いでしょうか?
次章ではこれら食物繊維の正しい摂取法について解説します。
正しい食物繊維の食べ方
ここでは、野菜の食べ方や食物繊維の含有量についてまとめていきます。
レシピ作成において実用的なデータなので確認しておきましょう。
食物繊維の摂取量は不溶性:水溶性=2:1
日本人の平均摂取量と理想的な摂取量は、厚労省によって、それぞれ『国民健康・栄養調査』と『日本人の食事摂取基準』という資料にまとめられています。
成人の目標摂取量は1日あたり食物繊維 18〜20g2とされており、不溶性:水溶性=2:1となるように摂取することが理想です。
まずは、不溶性食物繊維を12g、水溶性食物繊維を6gと覚えておきましょう。
しかし、前章の通り、食物繊維も種類によって機能、役割が異なります。
『摂取量』だけを見て不溶性食物繊維ばかり摂取していると、便が硬くなり、便のキレが悪くなったりと、逆に便通が悪くなってしまう可能性もあります。
この点について少し詳しく解説していきましょう。
野菜350gだけじゃアウト!日本人は摂取目標の70%しか取れていない
”食物繊維18g”と言われてもパッとこないですね。
日本では、食物繊維の平均摂取量(成人)は1日あたり13〜15gという状況です。
和食、菜食が多い60代以上では18g前後と目標に近い値ですが、若い世代では理想の6〜7割しか摂取できていないのが現状です…
日本人の食生活が肉と糖質に偏り始めたのが主要因ですが、食物繊維の摂取に関して『野菜を何グラム取りましょう』と食材の量で計る人が多いことも問題です。
野菜350gとよく言われますが、これは野菜や豆類、海藻をバランス良く摂取すると食物繊維が15〜20g程度になりやすいだけであって、食物繊維の少ない野菜ばかり食べていても非効率です。
特に、キャベツ(1.8g/100gあたり)やきゅうり(同1.1g)、白菜(同1.3g)など、サラダや炒め物に使いやすいメジャーな野菜にはイマイチ食物繊維が含まれていないことも多いです。
食物繊維を取りやすい食材について、次章で確認しましょう。
食物繊維がとれる野菜はこれだ!食材と食物繊維含有量まとめ
食材の栄養成分は文部科学省の『栄養成分データベース』にまとめられています。
ここでは、各食材の食物繊維量をピックアップしてまとめました。
上位ランキングではなく、サラダなどのレシピに組み込みやすい食材からピックアップしています。
含量はすべて可食部100gあたりで示しています。
野菜、きのこ、海藻など | |||
食材 | 不溶性 | 水溶性 | 合計 |
ごぼう | 3.4g | 2.3g | 5.7g |
おろし大根 | 3.7g | 1.4g | 5.1g |
リーフレタス | 1.4g | 0.5g | 2.1g |
キャベツ | 1.4g | 0.4g | 1.8g |
はくさい | 1.0g | 0.4g | 1.4g |
ほうれんそう | 2.1g | 0.7g | 2.8g |
にんじん(皮無) | 1.8g | 0.6g | 2.4g |
しいたけ | 3.8g | 0.4g | 4.2g |
きくらげ(ゆで) | ー | 5.2g | 5.2g |
乾燥わかめ | dataなし | dataなし | 32.7g |
水戻しわかめ | dataなし | dataなし | 5.8g |
ひと口に野菜と言っても食物繊維量は食材ごとに全く違います。
こう見ると根菜は食物繊維の含量が高く、葉物は比較的低めとなっています。
例えば、レタスサラダを350g食べても食物繊維は7.4gと、目標には全く届かきませんね。
思考停止で野菜350g!と言ってもナンセンスだとわかります。
また、ごぼうや大根などの根菜は、食物繊維量、不溶性、水溶性のバランスがとても優れた食材です。
どちらも和食と相性が良い食材ですね。高齢者の食物繊維摂取量が高い理由が見えました。
水溶性食物繊維の含量ではきくらげが1つ抜けていますね。なお、乾燥状態では水溶性食物繊維が50%を超えます。
穀類・豆類など | |||
食材 | 不溶性 | 水溶性 | 合計 |
薄力粉 | 1.3g | 1.2g | 2.5g |
米(精白米) | 0.5g | ー | 0.5g |
玄米 | 2.3g | 0.7g | 3.0g |
コーンフレーク | 2.1g | 0.3g | 2.4g |
とうもろこし | 2.7g | 0.3g | 3.0g |
食パン | 1.9g | 0.4g | 2.3g |
あずき(乾) | 16.6g | 1.2g | 17.8g |
インゲン豆 | 4.6g | 1.0g | 5.6g |
グリンピース | 7.1g | 0.6g | 7.8g |
大豆(乾) | 15.3g | 1.8g | 17.1g |
ひきわり納豆 | 3.9g | 2.0g | 5.9g |
実は米やパンなどの穀類は、糖質だけではなく食物繊維もそれなりに含んでいます。
ただし、精製度が高いほど食物繊維も捨てられるため、玄米などの未精製に近い穀物の方が多くなります。
豆類は食物繊維の量が多く、積極的にレシピに取り入れたい食材ですね!
特に納豆は、食物繊維の含有量、不溶性・水溶性の比率がパーフェクトな食品です。
緑黄色野菜に加えて、根菜、豆、海藻を取り入れないと、水分ばかりで食物繊維が全く取れないレシピになっているかも!?
以下のブログでは理想的な記事が紹介されていましたので、リンクを貼っておきます。
ポカポカあったまる!野菜たっぷり豚バラ生姜鍋のレシピ|はらぺこグリズリーの料理ブログ
あとがき
食物繊維の基礎知識についてまとめていきました。
データベースを見ながらレシピを詰めていくのも良いですが、ある程度の手抜きも家事には必要です。
深く考えなくても、買い物ごとにいろんな食材を買ってみるだけで、食物繊維もビタミン、ミネラルもバランス良く取れるはずです。
思った以上に、食物繊維はいろんな食材に含まれています。
健康維持に向けて料理を楽しんでいきましょう!