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いただきライフ!

食品研究者がつづる食と健康の備忘録

そのヨーグルト腐ってない?ヨーグルトメーカーの使い方と注意点を食品研究者が解説してみる

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ヨーグルトメーカーを使って自作ヨーグルトを使る人が最近増えてきましたね!

僕ももちろんMYヨーグルトメーカーを持っていますよ。
ただ、僕はマッドサイエンティストなので、ヨーグルトを作るよりも、複数のヨーグルト種菌を混ぜてみたり、カマンベールチーズを試作したり、ほぼ実験器具として活躍しています。
ホエイを切ってギリシャヨーグルトを作ることもできますよ!

ヨーグルトメーカー本来の使い方をすることはあまり無いですね。
『自作するなら買うわ』というのが正直な感想なので…。

やはりメーカーが作ったものを買った方がクオリティが高いですからね。好みの味もありますし、何より『リスク』もありますから。
メーカー製のヨーグルトじゃ満足できず、自分で材料や発酵条件を追求したい人には向いているかもしれませんね。

さて、今回のトピックは『ヨーグルトメーカー』

色んな人のツイッターやFacebook、ブログ記事を見ていると、ヨーグルトメーカー…というより、乳酸菌(微生物)を扱う上での注意点を理解していない人が多そうな印象を受けました!

ヨーグルトメーカーを使う前に覚えておきたい注意点を1つ1つ解説していきますので、自作ヨーグルトに挑戦する前に是非ご覧ください!

ヨーグルトメーカーの基本的な使い方

僕が使っているヨーグルトメーカー(2代目*1)はこれ!
1℃単位で温調できて、ホエイを切るザルも付いているので、水切りギリシャヨーグルトも作れます。レシピもあるよ!

この記事ではまず、このヨーグルトメーカーを用いて基本的な自作ヨーグルトの作り方を紹介します。

 

予備加熱

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いきなり説明書にない工程ですが、まず牛乳を封をしたまま予備加熱します。
低温でスターターを添加してセットすると、発酵温度に達するまでの間に微生物汚染のリスクが高くなるからです。
封をしたまま高温にすると気層が膨張しますが、この程度の温度では破裂の危険はまずありません(自己責任で)。

 

スターター添加

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牛乳や乳酸菌に触れる用具はすべて殺菌しておきます。

煮沸消毒できればベストですが、僕のヨーグルトメーカーは熱湯はOK、煮沸はNGなので、火を止めた熱湯にしばらく漬けておきました。
各ヨーグルトメーカーの仕様を確認しましょう。

 

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今日はスターターにダノンビオを用いました。粉末タイプのスターター乳酸菌もあります。
ヨーグルトをスターターに用いる場合は、牛乳の5〜10%程度の添加量で十分です。
1%程度でも問題なく乳酸菌は増えますが、家庭では微生物汚染のリスクが高いので、多めに入れて発酵時間を短くします。
乳酸菌が増えて酸性になれば、カビや大腸菌の増殖リスクはかなり低くなります。

 

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スターターを入れたらよくかき混ぜます。
もちろん、かき混ぜるスプーンは牛乳に触れる柄の部分まで熱湯をかけておきました。 

 

発酵 

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スターターを入れたら、素早く封をしてヨーグルトメーカーにセットします。
この状態で4時間ほど発酵させると、牛乳が凝固し、ヨーグルトができます。*2

 

出来上がりの確認

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無事できましたねー!
今回は一晩(約8時間)置いておいたので、かなりがっちり固まっています。

 

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マイ試験紙でpH*3を見てみると、pH4.2程度でしょうか。
一晩置いておいたので、市販のヨーグルトより少し酸っぱめですね。
マイルドなヨーグルトが好きな人は、pH4.8程度で止めると酸味がかなり控えめになります。
添加量と発酵時間を変えてベストな条件を探してみましょう!

こういう簡易的なpH試験紙は製造現場でも使われますが、普通に市販されています。ヨーグルトメーカーを使う場合、pH4.5前後を細かく見れるものがベストです。
めんどくさい人は自分の味で判断しましょう。
ヨーグルトができた後はすぐ冷却しないとどんどん酸度が上がるので注意!

 

このヨーグルトメーカーでは他にもギリシャヨーグルト納豆、少し頑張れば各種ナチュラルチーズも作ることができます。
それはまたの機会に…。

それでは、ヨーグルトメーカーや、乳酸菌を扱う時の注意点をまとめていきましょう。

 

ヨーグルトメーカーの注意点

腐って当たり前!『牛乳と微生物汚染』について

そもそも、メーカーで製造されるヨーグルトは、牛乳の殺菌からスターター添加、発酵まですべて閉鎖系で完結します。

牧場など設備が小さい工場では、蓋を開けてスターターを添加することがありますが、それでも厳密な発酵時間や温度管理の元、汚染のリスクを限りなく小さくして製造されています。
家庭で作る自作ヨーグルトのように、牛乳を開封して、素手でヨーグルトを…なんてこをはありえません。

下記に主な汚染菌と温度の関係を載せておきます。

温度 乳酸菌 主な汚染菌
22~28℃ カスピ海ヨーグルト
L.lactis ssp. cremorisなど
カビ
酵母
37~43℃ 通常のヨーグルト
L.bulgaricus
S.thermophilusなど
大腸菌
黄色ブドウ球菌

粘性の高いカスピ海ヨーグルトは比較的低温で発酵させます。
25℃前後が推奨されていますが、この温度はカビが最も生えやすい温度でもあります。また、30℃前後で増えやすい酵母も汚染源になりやすいです。
前者はカビ臭が、後者はアルコールの香りが発生するのが特徴ですね。

また、普通のヨーグルトは40℃前後で最も発酵が進みます。
この温度はほとんどの細菌の最適温度でもあります。
病原性大腸菌黄色ブドウ球菌などが主な汚染菌です。
黄色ブドウ球菌は雪印乳業の集団食中毒の原因菌でしたね。

これらの微生物が少し増えたところで、普通の大人が食べても問題無い場合が多いです。
『なんか味がちょっと変だなぁ』くらい。
悪くても下痢になるだけでしょう。
そもそも、これらの菌は空気中や人体に生息している常在菌ですからね。

食中毒が悪化しやすいのは乳幼児や免疫力が低下している人が汚染したヨーグルトを食べてしまった場合です。

『マニュアル通り作ったのに腐った!』なんて人がいるかもしれませんが、それはただの馬鹿クレーマーですね。
そもそも一般家庭で開放系で作る時点で『腐って当たり前』みたいなもの。

牛乳は糖・アミノ酸・ミネラル・水分ほとんどの微生物にとって理想的な培養環境です。牛乳と雑巾の関係はご存知の通り…
コスパや味の追求など、色々な理由で自作ヨーグルトを作る人がいますが、リスクを追えないなら大人しく市販ヨーグルトを買いましょうね。

 

汚染させない作り方のカギは『温度』『添加量』『発酵時間』

とはいえ、なるべく汚染させないで自作ヨーグルトを完成させたいですね。
ヨーグルト工場のタンクと、ヨーグルトメーカーの違いを簡単に図示してみました。

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ヨーグルト工場では、密閉されたタンクでヨーグルトを作ります。
周りは温水や蒸気などが通る空間で覆われていて、素早く冷却・加温されます。
材質も熱を非常に通しやすい金属です。
牛乳はスターター乳酸菌を入れるまで撹拌され、目的の温度に達してから添加、静置されます。

対して市販のヨーグルトメーカー。
図の通り、熱源と牛乳の間に『空気』と『紙』がはさまれていますよね。
この2つは熱を通しにくいため、温度を設定しても、牛乳の実温に反映されるには時間がかかります。
壁面付近は設定温度でも、真ん中は低いまま…時間が経っても設定温度の数℃下になっている場合もあります。

前章の通り、普通の乳酸菌は40℃付近で早く増殖します。
しかし、中心が冷たいままだと、この付近では乳酸菌は増えにくい状態…
代わりに、カビや酵母が生えやすい状態になっています。

そのため、

  • スターターを入れる前に加温
  • スターターヨーグルト(または粉末)を十分に添加

を守り、乳酸菌が素早く増殖できる環境を作りましょう。

 

pHと凝固:振動させるとヨーグルトにならないよ

ヨーグルトが固まるのは、乳酸菌が出す乳酸によって牛乳の酸度が上がり、牛乳中のタンパク質が凝固するからです。*4

牛乳が凝固するときに、水分(ホエイ)や油分などもまきこむため、静置した状態では綺麗な形に固まります。
しかし、タンパク質の凝固が進んでいる最中…特に最も不安定なpH5.5〜5.0で撹拌してしまうと、液状になるだけではなく、ホエイとヨーグルトが完全に分離してしまうことがあります。

『固まってるかなー…』と見たくなるのはわかりますが、スプーンでかき混ぜたりすると、良い形のヨーグルトはできません。

 

普通のヨーグルトと『飲むヨーグルト』の違い

飲むヨーグルトは、普通のヨーグルトを撹拌・破砕して液状にしただけです。
飲むヨーグルトをスターターにしてヨーグルトを自作しても普通のヨーグルトにしかなりません。以上!

 

自作ヨーグルト永久機関は不可能?乳酸菌と『ファージ感染』

乳酸菌を何度も植え継いでいると、突然全くヨーグルトが出来なくなることがあります。
もしかすると、そのヨーグルト…あるいはあなたの部屋がバクテリオファージに汚染されている可能性があります。

バクテリオファージは、細菌に感染するウイルスです。

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出典:東京大学丹羽研究室

こんなやつ。クソかっこいいね!

感染対象は細菌なので、人体には危険はありませんが、大きな問題が…。
そう、乳酸菌が全く生えなくなるんですよ。 

ヨーグルト工場でも、同じスターターをずっと使用していると、工場全体にファージが増殖し、発酵不良になることがあります。

対策は、スターター乳酸菌を定期的に変えること。
基本的にファージの感染対象は限定的で、菌株を変えてしまえば感染できません。
乳製品メーカーは、ファージ対策に同じ機能を持つ乳酸菌株を多数持っており、スターターを入れ替えながら製造しているのです。

ファージに感染しない限り、ヨーグルトの永久機関は不可能ではありません。
ただし、一般家庭で植え継ぐときは、大腸菌やカビを巻き込みながらヨーグルトを作っていることを忘れないように…
急に腹を下しても完全に自己責任ですよ!

 

R1、LG21を自作…?『機能性ヨーグルト』をバカにしすぎな件

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前章の通り、乳製品メーカーは菌株を入れ替えながらヨーグルトを製造しています。
製造前にはスターターの機能性チェック…例えば、

  • 増殖速度
  • 酸の発生量
  • 機能性成分の生成量
  • 乳酸菌の胃酸耐性

などなど…全てが現行品と同等以上であることを確認してから使用します。

それに『生きて腸まで届く』プロバイオティクスで知られるビフィズス菌は、酸素が無い状態でしか増殖できないので、一般家庭ではそもそも培養できません。
メーカーでは気層部を窒素に置換するなど、完全に酸素をシャットアウトした状態で発酵させています。*5

明治のR1やLG21などの乳酸菌は、万は下らない株の中からエリートを選抜していますが…エリートの維持というのも難しいのです。
植え継ぎしてるうちに一般人に戻ることも…

機能性ヨーグルトを植え継いで大量生産!なんて野望も良いですが、基本的に自作したヨーグルトに市販品と同じ機能性は期待できないと考えておきましょう。

 

おわりに

ヨーグルトメーカーは有能ですよ!

簡単にヨーグルトが増やせますし、少し良いモノを買えば、ギリシャヨーグルトやいろんな発酵食品が作れます。
腐りやすい牛乳をヨーグルトにして『保存食化』するという考え方もありますね。お通じにも良いですし。それでも頑張って2週間程度しか持ちませんが…

今度はヨーグルトメーカーでモッツァレラチーズでも自作してみましょうかね。

それでは、楽しいヨーグルトライフを!

*1:初代は納豆の増殖に失敗して腐敗臭が取れなくなったので廃棄

*2:温度が低いなどの理由で発酵時間は変動するので注意

*3:1酸性←7中性→14アルカリ性のアレ

*4:牛乳中のタンパク質(カゼイン)は中性付近のpH7から酸性に傾くと徐々に不安定な分散状態になり、等電点であるpH4.6で完全に凝固する。

*5:通常の乳酸菌は通性嫌気性菌(酸素があってもなくても増殖できる)なので、ビフィズス菌に合わせて酸素が無い状態で培養しても増殖できる。